2010年2月6日土曜日

川越の東明寺 松本清張の『黒い空』の舞台

川越の東明寺 松本清張の『黒い空』の舞台
2010.2.2 産経新聞を抜粋編集

 埼玉県川越市の時宗の寺、東明寺は松本清張さんのミステリー小説「黒い空」の舞台だ。小説の冒頭、歴史講師が登場し、天文15(1546)年にこの東明寺付近で繰り広げられた山内、扇谷両上杉連合軍と、北条軍との凄惨(せいさん)な戦闘「川越夜戦」を解説する。

 連合軍は約8万騎で北条綱成がこもる川越城を包囲。そこに、北条氏康が8000騎の援軍を率いて駆けつけ、連合軍に夜襲を仕掛ける。数におごった連合軍は不意打ちで総崩れとなり、扇谷上杉家当主の朝定は戦死、山内上杉家当主の憲政は敗走を余儀なくされる。400年以上の時を超えた敗者の怨念(おんねん)は、現代の東京都八王子市郊外の結婚式場を舞台に殺人事件を引き起こす。

 東明寺は、川越市の蔵造りの街並みが続く旧市街をはずれ、北へ歩いた住宅街にひっそりとたたずむ。かつては広大だったという境内はこぢんまりとし、人ひとりいない静けさ。「川越夜戦跡」の石碑が立つことだけが、ここが激戦の中心であったことを伝える。

 川越市立博物館の天ケ島岳さんは「夜戦は江戸時代の創作で実際は日中の合戦だったようです」と、小説で語られる「史実」を否定する。ただ、数少ない史料や、江戸から明治期に合戦の戦死者とみられる数百体の人骨が東明寺から出ていることなどから、その後の関東の政局を変える大きな合戦がここで起きたことは間違いないという。

 川越は中世関東の軍事と物流の要衝で、北条支配時代の町づくりが小江戸と呼ばれる町の礎となった。しかし、こうした歴史に興味を持って川越を訪れる人は少ないようだ。東明寺から徒歩15分ほどの川越城跡地に建つ本丸御殿は江戸末期の造営。現在保存修理中で平成23年に公開が再開される。天ケ島さんは「公開を機に歴史ファンにも訪れてもらえれば」と期待していた。(門倉千賀子)