2009年1月12日月曜日

川越市長選直前 市政の課題を追う[上]

 2009年1月11日(日)埼玉新聞を抜粋編集
突然の構想に波紋 庁舎移転 財政裏付け鍵

 任期満了に伴う川越市長選挙は十八日告示、二十五日投開票される。今期限りで勇退を決めた舟橋功一市長(76)=四期=が後継指名した元副市長で財団法人理事長の細田照文氏(68)と、前市長の故・川合喜一氏の次男で弁護士の川合善明氏(58)が出馬を表明しており、新人二人による一騎打ちとなる公算が大きい。市民の関心を集めているのは、舟橋市長が打ち出した川越駅西口への市庁舎移転構想が実現できるかどうか。また、今年三月から放映されるNHK朝の連続テレビ小説「つばさ」を控えて観光客の急増が予想される中、蔵造りの民家が並ぶ一番街をはじめ市街地の交通渋滞緩和策や駐車場対策など環境整備をどう進めるのか。告示前に市政の主な課題を探った。

 「市長。壇上に乗ってください」。議場の市長席で独り言のように何かつぶやく舟橋市長に、議長が促した。舟橋市長は登壇し答弁したが、「暫定休憩して執行部に整理させろ」と野次が飛び交い、議場は騒然となった。結局、答弁途中で議会は中断され、舟橋市長はその夜、狭山市内の病院に緊急入院した。

 昨年九月、川越市議会の一般質問での出来事。市庁舎移転に関する舟橋市長の発言をめぐり、修正や訂正などを求める中原秀久市議に対して、かみ合わない答弁が続いていた最中だった。議会は翌々日、再開。副市長だった細田氏が市長答弁を代読し、取りあえず事態は収拾した。

 庁舎移転問題の発端は一昨年九月にさかのぼる。舟橋市長は議会の一般質問の答弁で「財政負担を抑えるため、JR川越駅西口前の市有地に上層階を住宅にした高層ビルの庁舎を建設したい」と庁舎移転構想をぶち上げた。関係者への根回しがなかったためか、市長の発言に議員をはじめ関係者に波紋が広がった。

 この構想に敏感に反応したのが、現庁舎のある旧市街地の自治会で組織する「十か町会」(十二自治会加盟、小川邦夫会長)。「現庁舎周辺の商店街がさびれ、川越駅周辺に交通渋滞が予想され混乱を招く」などを理由に昨年二月、庁舎移転に反対する意見書を市に提出している。

 市長の意向を受けて市は昨年二月から約一カ月にわたり、市民五千人を対象に西口移転の是非を問うアンケート調査を実施。西口移転は「良いと思う」が55%で、半数以上が肯定的に受け止めていると発表した。同四月には市庁舎建設準備室を設置。市民調査結果を前提に、二〇〇九年度中に基本構想を策定する段取りで検討を進めている。

 一方、議員の中には「西口移転を前提にしたアンケート方法に問題がある」との声もあり、議会は昨年三月、「市庁舎建設特別委員会」(久保啓一委員長)を設置。耐震性や老朽化など現庁舎の問題点を洗い出すとともに、現庁舎の改築と場所の選定を含めた新庁舎建設の二つのケースについて、メリットとデメリットを検討する方針だ。

 移転構想の予定地は敷地面積約八千三百平方メートル。一九六九年に元少年刑務所の跡地を国から土地区画整理事業用として収得した土地の一部で、八八年から市営の無料駐輪場になっている。約四十年前の庁舎建て替えの際も候補地に挙げられており、駅西口への移転は“古くて新しい問題”といえる。

 ただ、「九二年に設置した庁舎建設基金は同年に五億円を積んだだけ。庁舎建設は実費の半分の基金がなければ将来の市民に負担を残すとされており、財政上は非常に厳しい」と指摘する関係者も少なくない。拙速気味に表明された庁舎移転構想だが、実現には財政面の裏付けが鍵を握っている。