2008年9月28日日曜日

対決・お国自慢:蔵の街 栃木市VS川越市

2008年9月26日 毎日新聞

趣のある日本建築が並ぶ地方都市を「小江戸」と呼ぶ。中に蔵造りの建物があると、街には一層、情緒が増す。「蔵の街」と呼ばれる栃木市と埼玉県川越市はそんな都市の代表だ。街づくりに取り組む2人に、それぞれの街の良さを語ってもらった。【中村藍、鈴木賢司】

◆栃木県・栃木市

◇商都の繁栄を今に--栃木蔵街暖簾会事務局長・殿塚治さん(58)

栃木市は江戸時代、市内を流れる巴波(うずま)川の舟運と、朝廷から日光東照宮に派遣された使者が通る道(例幣使道(れいへいしどう))の宿場町、商都として発展しました。当時は周辺で麻が豊富に採れ、巴波川を通じて江戸に出荷していました。

市の中心にある大通りの幅は10間(約18メートル)で、当時と変わっていません。広々とした歩道を散策しながら、伝統的建造物が多く残る街並みを楽しむことができます。

07年には江戸時代の浮世絵師、喜多川歌麿の肉筆画が市内で発見されました。当時は文化人の交流も活発だったようです。廃藩置県の後、明治4(1871)~17(1884)年には県庁も置かれました。

小説家、山本有三の出生地であり、大正、昭和期の女性作家、吉屋信子も多感な少女期をこの街で過ごしました。明治8(1875)年には、栃木女学校が全国の公立女学校としては3番目に創立されました。教育に熱心な土地柄だったようですね。

観光イベントは活発で、とりわけ10、11月に集中しています。明治初期からの歴史があり、江戸型人形山車が繰り出す「とちぎ秋まつり」をはじ め、最近始まったばかりの新しい祭りもたくさんありますよ。秋にひな人形を飾る「お蔵のお人形さん巡り」は、全国的にも珍しい催しでしょうね。蔵を上映会 場に使った映画祭や古楽器を使った音楽祭など、中心市街地で開催される祭りは年に20回以上もあります。

栃木県ならではの地の利もあります。都心から近いだけではなく、高速道路や電車を使って那須、日光、益子など周辺の観光地にも足を延ばすことができます。商店街など昔から住んでいる人が多く、マンションが比較的多い川越市とは違った魅力があると思います。

◇メモ

栃木県南部に位置する商業都市。都心からは東武鉄道や東北自動車道でアクセスできる。中心市街地には508棟の伝統的建造物が建ち並び、うち217棟は蔵。美術館や資料館として公開されているものもある。

◆埼玉県・川越市

◇商家が醸す生活感--川越蔵の会会長・原知之さん(52)

江戸から大正時代に建てられた黒く重厚な蔵造りの商家20軒や洋風建築などが、「一番街通り」という県道を中心にまとまって残っているのが川越の特徴です。

「通り」の商店街では昭和50年代、駅前に客が流れ、若手商店主らが対策を考え、生まれたのが「川越蔵の会」でした。「商店街を活性化させること で蔵を保存する」との提言が、商店主たちに受け入れられ、蔵を生かした街づくりの考えが広がりました。年間600万人近い観光客が訪れるのは、東京に近い 地の利もあるでしょうが、行政の協力も得ながら商店街と蔵の会、自治会など住民が一体となっていることが大きいと思います。

看板の設置や店舗改装をする際は、87年に商店街が設けた町並み委員会に諮ることになっています。景観を損ねず統一感を保つためです。学識者や蔵 の会会員、地元自治会役員ら25人に市もオブザーバーで加わり、独自の「町づくり規範」を基に施工主や設計者らと話し合います。塀なども対象にして「こう したら良いのでは」と提案しています。秩序ある景観を保つため、住民たちが自主的に規則を決め話し合うのは全国的にも珍しいのではないでしょうか。

92年には、一番街通りの電柱・電線が地中に埋設され、すっきりした景観になりました。昨年は県が歩道をしゃれた石畳に変え、商店街が街路灯も取り換えました。街路灯は昼は目立たぬよう低く設置し、夜は蔵をライトアップしています。

川越の蔵は店蔵(みせぐら)といって商いをする建物です。奥の住居棟と一体となっており、生活の息吹が感じられます。金物、和菓子、時計など地元住民に商いをしてきた専門店が多く残るのも、川越の歴史と生活感を感じさせ、魅力となっています。

◇メモ

江戸時代、川越藩の城下町で、荒川・隅田川へ続く川の舟運で栄えた。1893(明治26)年の大火後、耐火建築の蔵造りの商家が建てられた。周辺約7万8000平方メートルが99年、重要伝統的建造物群保存地区に選ばれた。

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■人物略歴

◇殿塚治さん

1848年創業の人形店、三桝(みます)屋代表。1984年、栃木市で最初の民間まちづくり団体、栃木蔵街暖簾(のれん)会を創設。NPO全国町並み保存連盟常任理事も務める。

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■人物略歴

◇原知之さん

川越市生まれ。蔵造りの町並みにある陶器店「陶舗やまわ」3代目社長。川越一番街商業協同組合の前理事長。01年からNPO法人「川越蔵の会」4代目会長を務める。